すずめ

 朝起きると深々と雪が降っていて、空は灰色。灰色な空から真っ白な雪が降っているのだけれどその雪までが灰色に見える。
 ナナカマドの樹が、気が付くと葉も実もなにも残さずに枯れ木のように寒々と立っていた。確か1月頃にはまだ実が残っていたはずだけれど、すずめがついばんでしまったのだろう。秋の実がたわわになる頃、すずめはナナカマドの実など見向きもしない。この真冬のえさが無くなる頃、仕方なく美味しくもないナナカマドの実をついばむ。そしてそれももう無い。すずめは今、何を食べているのだろうか。



 一年と少し前、人事異動があって今の仕事の担当になった。右も左も解らない。プレッシャーと出来ない自分に対するもどかしさと未知なるものへの不安。叱責されたり、書類を突き返される夢を何度も見た。
 もう本当に辞めようか… とも思った。辞めたら気が楽になるだろうと。でもなんだか釈然としない。
 泳げない人は、泳げるようになりたいと。自転車に乗れない人は、ただ自転車に乗れるようになりたいと。それが出来るようになったからと言ってどうと言うことはないけれど、そういう欲望が自分のなかにあるうちは、まだ辞める訳にはいかないなと思った。


 先日、友人と話をした。
 どうしてあなたは、出来ることではなく、出来ないことへ目を向けるのか? と問われて返す言葉が無い。私は、叱責される夢は何度も見たけれど、叱責されたことは無い。ミスをしたとき、叱責される代わりに「そんなことで命までは取られないから心配するな」と何度か言われた。
 あなたを一番認めていないのはあなた自身だ。自分のことをもっと労れ。自分をもっとやさしく扱え、と言われて救われた。他人に評価されたくてやっている訳じゃない。自分で自分のことを評価したいだけ。その基準が、自分のキャパを越えている。一長一短に身に付くことじゃないことは、最初から覚悟していたはず。一所懸命やっていることを解ってくれている人がちゃんといる。よくよく考えたら日々のなかで優しい言葉をかけてくれる人はたくさんいる。そういう人の言葉を頑なに拒否をしていた自分が恥ずかしかった。



 すずめは、美味しい木の実がなくなれば、仕方なくナナカマドの実をつつく。それもなくなればまた何かを探して歩くのだろう。そうしているうちに春になり一斉に草木が芽吹きはじめる。まだ遠いかもしれなけれど。