友人と

友人がさめざめと泣いていた。
家族のことで、ここ数年ごたごたしていて、責任感の強い彼女はひとりでずっと頑張ってきたのだけれど、やっぱりときどき弱音を吐く。
当り前だ。そんなこと一人で背負い込むようなことじゃない。それを背負わせている親や兄妹に対して、正直に言うと嫌悪感を感じるが、私がそれを口にすると、彼女が何のために頑張っているのか解らなくなってしまうので、口をつぐむ。
「頑張れ」とは言えない。もう頑張らなくていいと思う。
良い打開策なんて私には全然思い付かなくて、ただ「うん、うん。」と聞くだけ。
彼女も別に私にアドバイスして欲しい訳じゃないだろう。ただ弱音を吐く場を提供して欲しいだけなのだろうけれど、それは解っているのだけれど、こんなときに気の利いた言葉のひとつでも掛けることが出来ればなぁと思う。気の利いた言葉のひとつも掛けられない自分が、歯がゆいし情けない。


少しそれがおさまったころ、別の友人がやってきた。
その友人も彼女の事情はおおよそ知っていて、何か察するものがあったのだろう。やけにバカバカしい話しをし始めた。
「この間、ボディシャンプーで頭洗っちゃってさ〜」
洗顔クリームで歯磨きしちゃったことあるんだよね〜」
「あそこの角に頭ぶつけて、目から火花散ったんだよね〜」
最初は彼女も泣き笑いのような顔をして聞いていたのだけれど、負けじと自分のバカバカしい話しを披露しはじめた。もともとこの手の話しは、彼女の十八番なのだ。一番バカバカしい話しのネタを持っている。
気が付くと、彼女一人がバカバカしい話しを延々と披露して、その場は終わった。


多分、彼女は笑っていただろう。別の友人も笑っていた。私も腹がよじれる程笑った。
その場が散開したあとに友人は、「彼女、また何かあったんでしょう?」と、私に聞いてきた。
「うん。」としか私は答えられなかったけれど、「やっぱり解っていたんだな」と思った。
私が落ち込んでいても、その友人が落ち込んでいても、誰かがこんな風に笑わす。3人の中には暗黙の了解のようなものが存在していて、決して直接ものを言ったり、聞いたりはしないのだけれど、誰かが場を和ますようなことを言い出すことは、今までにも何度かあったような気がする。


この二人といるときの空気間は、また特別なものがあるなぁ、と思った。長い付き合いのなかで生まれたものだけれど、この二人のことをやっぱり好きだなぁ、と思った。
でもさ。
これが、夜の9時に会社の休憩室で、お腹空かせてグゥグゥしている時の出来事っていうのは、なんだかイタイ。