藤棚

 いつも通勤で通る道の横に小さな公園があって、その公園にはなぜか藤棚がある。ほんの少し前にはたくさんの紫色の花が垂れ下がっていたのだけれど、今はただ青々としたした緑が屋根を作っているだけだ。
 その藤棚の下にはベンチがあって、毎年藤の花の季節になると、そこのベンチに座ってみたいなぁ、と思っていた。結局、今年も出来なかったけど。
 夏になると花はもう咲いていなくても藤棚は日陰を作り出し、それを求める人が止まない。。昼休みのサラリーマンが昼寝をしていることもあるし、夕方になると高校生のカップルが楽しそうにおしゃべりをしていることもある。
 去年の夏。毎週土曜日の朝になるとそこへ座っているカップルがいた。
 なんとなくよれたスーツをきたサラリーマン風の男の人と女の人もちょっと皺のついたスーツやワンピースを着ていたように思う。どちらも30代くらいだろうか。
「昨日の夜、二人で飲みにいきました〜 でも朝になってもまだ離れ難いんですぅ〜」
 と、いう雰囲気を醸し出した男女が朝っぱらからベンチに座って抱き合っている。
 どんなに清々しい朝でも、その二人の周りには夜の雰囲気がまとわりついている。その二人をみるとせっかくの朝の気分が台無しになるような気がした。もう若くない二人が抱き合っているからという理由ではない。
 どうしてかなぁ〜 なんとなくその二人は悲しいような感じがしたんだよなぁ〜
 今年の夏もあの二人が来るような気がしている。いや、本当は来ないだろうけど、似たようなことが今年の夏もあのベンチであるんだろうなぁ、と思う。