うつむく

 例えば、ウソをつくときは目を合わせられないとか、自分の髪の毛を触るのは自己愛の表現だとか、腕を組むのは警戒心の現れだとか……
 無意識のうちに身体がそのシグナルを送ることは、よくあることなんだと思う。特に視線と手の位置っていうのは、その時の心境を如実に表しているのかもしれない。詳しい訳じゃないからよく解んないけど。


 今日、人と会う約束をしていたんだけど、その人に対してちょっと引っ掛かっていたことがあった。そのことをきちんと話そうという思いと、これは私の胸にしまってやり過ごそうという思いのなかで迷っていた。
 あまり楽しい話しじゃない。だから、もしきちんと話しをするにしても、それ以外の話しをしているときは、努めて明るく楽しくしていなければ、と思っていた。楽しくないのは、その話しをしているときだけでいい。
 結局、なんだか話しそびれて、でも胸の中に全部しまっておけるほど大人じゃない私は、別れ際にさらっとだけ、そのことに触れた。
「ちゃんと顔を上げなさい」
 そう言われるまで、自分がうつむいていることになんて気づきもしなかった。
 思い返してみれば、今日、その人がどんな顔をしていたのかなんて、全然覚えていない。楽しくない話しをしたのは、別れ際のほんの一瞬だけど、それ以外のときの顔も思い出せない。出来るだけ楽しく過ごそうと思ってはいたけれど、きっと私はその人の顔をまともに見てはいなかったのだろうと思う。
 そんな風にされれば、いくら鈍い人でも何か思うところはあっただろう。
 なんて、失礼なことをしてしまったんだ。失礼なことというより申し訳ないことをしてしまった。


 なんて子供じみているんだろうと思う。情けない。反省というよりは腑甲斐無い。
 明日からは、ちゃんと顔を上げていようと思う。。。