徒然

 昔々、大昔、まだ中学生だったころ大好きだった男の子がいた。隣のクラスのバスケ部の男の子で、背が高く、顔はそんなに格好良かったわけじゃなかったけど、人気者の男の子だった。中2のころ、お付き合いをすることになって、家まで送ってもらったりしていた。
 淡い淡い中学生の頃の話しだけれど、鮮明で鮮烈な印象が今でも残っている。
 でも、そんなことはすっかり日々のなかに埋もれて忘れていた。当り前の話しだけれど、そんなことを度々思い出しながら生きてるわけじゃない。
 それなのに、その男の子の夢を見た。
 内容は、全然覚えていない。けれど、その男の子が出てきたのは確か。目が覚めた時、半分寝ぼけながら、久々に会ったなぁ〜 と思った。
 過去を思い出して、今でもほんわかな気持ちになれる恋なんてそう多くはない。
 この男の子はその恋が終わったずっと後も特別な存在だった。長い間、思い出しただけで私をほんわかな気持ちにしてくれる存在だった。
 多感な思春期の頃の思い出だからなんだろう。その男の子のことよりも、その時の鮮烈な感情が忘れられなかったのだろうと思う。


 人って思い出に恋するんだなぁ。
 過去に好きだった人たちのことを思い浮かべても、その人がどれだけ素敵だったかなんてことはほとんど覚えちゃいない。一緒に行った場所やその時の空気や、自分の感情のことしか覚えていない。
 それらの記憶や経験をもたらしてくれたのは、確かにその人たちなんだけど、今残っているのは、それらが染み付いた自分だけなんだなぁ、と思う。


 昔好きだった人のことが忘れられない、なんて話しを聞くと何かがちょっと引っ掛かる。その気持ちが、解らないわけではないのだけれど、でもなんだか違うような気がする。
 本当は「人」に対して執着しているんじゃなくて、好きだった自分の気持ちや思い出に執着しているんじゃないか、って気がする。それを「人」へと転化しているような気がしてならない。
 人ってどんどん変わる。相手も変わってるだろうし、自分だって知らぬ間に変わっている。置かれている環境だって変わる。その変化を共に歩んでまだ尚、好きだというならば解るけれど、過去をぶつ切りにして「あの時のあの人が好きだった」と言ってももうそれはその人じゃない。
 過去の出来事は、変わりようもないのだけれど、思い出になった途端、暴走しはじめる。美化し、膨れ上がり、妄想する。


 まぁ、暴走万歳!妄想万歳! ですけどね。
 ただ、それは自分の脳内だけで完結している場合だけです。外に漏れ出した妄想は、他人には手が付けられないので、自己完結で妄想してくれ〜 って感じです。