転勤。

類は友を呼ぶとは、よく言ったものだなと、最近思う。
私のまわりには、いつも何かにもがいている人が多い。貪欲というか欲張りと言うか、諦めが悪いと言うか・・・
二者択一を迫られた時、どうやったらそのどちらも手に入れられるか、などと考えるような人たちばかりだ。私も例外では、ないのだけれど。


数日前、友人から電話がきた。
彼は、友人で、私の元上司。一緒に仕事をしたのはたった2年だけだけれど、その当時は付き合ってもいた。今も同じ会社に勤めてはいるが、彼は東京、私は札幌。
今は男女関係よりも、上司と部下という関係よりも、同士って感じ。


二年程前、彼は東京転勤を命じられた。手が付けられないくらい、どうしようもない部署の立て直しである。単身赴任でやむなく赴任。
このどうしようもない部署の立て直しは、三年計画で行われる予定だった。二年経過して、本当によくぞここまで立て直し出来たものだと思う。完成に向けて、あと一年、単身赴任で頑張るつもりだと、ほんの数週間前に彼は言っていた。
その矢先、また彼に札幌転勤の話しが持ち上がった。
札幌には家族がいる。生まれ育った慣れ親しんだ土地でもある。戻ってきたく無い訳が無い。
しかし、この二年間の成果の総仕上げが、彼にはまだ残されている。彼が転勤してしまえば、一緒に頑張って来た仲間も、部下も見捨てるような形になってしまう。
で、悩んだ挙げ句、くら〜い声で私に電話をしてきた。


「そんなこと奥さんに相談すれば〜」と私。
「あいつは手放しで喜ぶと思う。でもこっち(東京)で俺がどんな風に仕事してるか解らない人に聞いても適切な答えは出ないよ。kaori-nなら客観的にどう思うか言ってくれるかな?と思って・・・」
あらあら、信頼されているのね。
客観的ではなく、私の主観で答えるならば、「戻ってくるな」である。
彼の札幌で用意されているポジションは、私とは違う部署だけれど、私の仕事と密接な関係がある場所だ。彼は仕事において、絶対的に信頼出来る。私の仕事も彼がいてくれたら、ずっと楽になるだろう。コミュニケーションストレスも格段に軽減されるに違いない。
それでも「戻ってくるな」である。それは、元彼っていうのが、ただ面倒なだけだ。
男女の友情っていうのは、難しい。この東京と札幌という距離だからこそ上手くいっている友情なのだ。もっと距離が近くなって、毎日顔を合わすようになれば、この友情は壊れるかもしれない。お互いに信頼出来る人間として、好意を持っていることは解っている。でもこれは危ういのだ。いつ男女としてに変化してもおかしく無い関係なのだ。
毎日顔を合わすのは危険。ましてや、仕事でもっと密接な関係を築けば、彼の仕事ぶりを目の当たりにすれば・・・
もともと彼の仕事ぶりに惚れたんだもの。


しかし、客観的に考えてみれば、「戻っておいで」である。
彼は二年間で十分その役目を果たしたと私は思う。どうしようもない部署を平均レベルまで引き上げることが出来た。あとの一年は「彼の満足が出来るようなレベル」までにかかる時間なだけだ。
それほど大きな会社な訳じゃない。一年先に彼が望むようなポジションが、札幌に用意出来るとは限らない。ポジションには限りがある。それが今年なら用意出来る。
「仕事に執着するな。自己満足だけで仕事するな。」これが彼に対しての私の答えである。
彼は、苦労した二年間に執着している。でも今彼がいる部署は、彼がいなくてももう一人歩き出来るだろう。
札幌に彼を必要としている人がいる。そして彼も札幌に戻りたいと思っている。


彼は翌日、札幌転勤の話しを受けたようだ。
そうは言っても、会社の人事っていうのは、各部署の担当役員の主張がせめぎあう場所でもある。本当に彼が転勤するかどうかはまだ確定していない。ただ自分の主張をしただけにすぎない。彼を東京に残しておきたいと考えている役員もいる。
結論は11月1日。
もし彼が本当に札幌に転勤になったら、私はどう思うんだろう。良かったと心から思えるのか、それともこれから起こるかもしれないことに、身を固くするのか・・・
その時になってみないと、解らないな。