可愛くて可哀想なモノ
いやん♪かわいい〜 私もこんな犬飼いたいわぁ〜
それにガケから降りられなくなってただなんてかわいそうだしぃ〜
などと思ったわけではない。
きっと、可愛がってくれるところへもらわれてゆくんだろうなぁと、それは良かったと思った。
しかし、なんなんだ。この100件以上の申し出というのは!!
世の中には、犬が飼いたくて、飼おうと思えば飼える環境にあって、チャンスがあれば飼おうと思っている人が大勢いるってことなんだろう。
おまけにこの犬は可愛い上に可哀想な犬だもの。人の心ぎゅっと掴んだんだろうなぁ。
メディアってやっぱ恐いよ。
ニュースをみた人がこれほど大勢、この犬を飼いたいって言うんだもの。人は「可愛くて可哀想なもの」が大好きだ。
しかし、世の中には「可愛くて可哀想な犬」なんてゴマンといる。
保健所や動物保護センターに保護されて、安楽死させられる犬は日本に年間数十万頭いると言われている。それらの犬も「可愛くて可哀想な犬」じゃないのか?
でも、その実情はメディアでは大きく取り上げられない。
里親探しもされているという噂は聞くが、そんなものを私は目にしたことがない。結局、人に捨てられて、一時的に保護されて死んでゆく。
どれほどそういう事実が積み重ねられても、誰の目にも触れなければその数を減らすことなんて出来ないだろう。生命あるものを捨てるなんて言語道断だけれど「可愛くて可哀想なモノ」は目に見えるところにいるだけじゃない。
この「がけっぷちの犬」の飼い主になりたくてもなれなかった人。そういう犬に目をむけてはくれないだろうか。
人も物も動物も、身近なところにいて、慈しんでその人の特別なモノとなる。「がけっぷちの犬」だって、ただニュースで見ただけでまだ誰かの「特別な犬」じゃない。動物保護センターにいる犬もそれと等距離じゃないだろうか。
多くの人が、目に見える可哀想なモノにしか心を寄せていないような気がして、なんだか悲しかったのです。